弟が使ったロープ。
亡くなる前日に、ホームセンターで買ってきたものらしく、必要な長さだけ切って、残りは足元にぐるぐると丸められていた。
「あのロープは、早めに母の目に留まらないように捨ててしまわないと」と思いながら、「でも、ここに何かターの想いが残っているのかもしれない」と思うとひと思いに処分もできず…
ぐずぐずしていたら、次の日、跡形もなく消えていた。
母にそのことを聞くと、
「捨てちゃった、見たくないから。あんなの」
なんと母は、自分の手であっさりと捨てていたのだ。
捨てたいけれど何か手掛かりが残っていそうで捨てられずに、なんとなく取っておかれても困るなあと思っていたけれど、私の杞憂に過ぎなかったようだ。
母は強い人だった。
母は弟が生きているときは何度も、
「子どもが先に死んだら、お母さん気が狂っちゃうよ」
と言っていた。
30を過ぎた子であっても、世話を焼くのが生きがいというような母だから、弟も私もそうだろうなと思っていた。
けれどもそんなことはなく、弟の自死の1週間後からは仕事にも復帰した。
強い。
でも、ター、あんたはそんなお母さんの強さに甘えてなんてことしたんだよ。
そういう甘え方は絶対にやってはいけなかったんだよ。
お母さん、「いっそのこと気が狂って全部分からなくなればいいのにと思う」と言ってるよ。