ターが好きだった花輪和一さんの「刑務所の中」を読み返している。
「甘いものを濃い紅茶を飲みながら一日かけて食べたい」とか、「春雨がたくさん入っているからビューだよ」という表現とか、作業所で回収役をしている人の口癖の「それじゃ様」のこととか…
おかしくて、何度もそのシーンを語っては真似していた。
この漫画だけじゃない。
10年以上前に見た映画やテレビの台詞とか、何かが面白くて引っかかっている言葉を繰り返し繰り返し引用しては笑っていた。
夫は、私たちの話の何が面白いのか分からないと言う。
どうしてそんなに笑い転げているのだろうと不思議に思っていたようだ。
ターは、多くを説明しなくても頭に描いたことや面白いと思ったことがさらっと伝わる唯一の理解者だった。
先日、ご主人を突然死で亡くされた友人と語り合いの会をしたら、その友人は再婚のお誘いをいただいているそうで、私まで嬉しくなった。
でも、「とても優しいし理解ある方だけど、自分が話そうとしているビジュアルを共有できたのは、あの人しかいないんだ」と言っていた。
私にとって弟が唯一のビジュアルを共有できる人だったのと同じように、彼女にとっては亡くなったご主人が唯一のビジュアル共有者だった。
夫婦でもいがみ合ったり妥協や惰性で付き合っていたり、兄弟でも何年も疎遠になったり、中には遺産や家庭の問題で裁判沙汰になっていたりという話もよく聞く。
「よくよく考えてみたら、友達であってもビジュアルを共有できる人ってものすごく少ないの。だから、そう思える人と出会えただけ、私たちはラッキーだったのかもしれないね」
友人の言葉に、改めてターと兄弟でよかったなと思った。
天気のせいか、寒くなってきたせいか、ここ数日毎日声を上げて苦しくなるくらいに涙する日々だけど、「悲しい」を「感謝」に変えていこうと思う。