亡くなってきれいに服を着せられ、死に化粧をして穏やかな表情のターの姿を見たときには「あ、きっと一番いい時期に戻ったんだな」と感じた。
首つり(縊死とも言うらしい)で亡くなった人の姿はひどいものだと聞いたことがあったけれど、ターは目が飛び出るとか舌が出るとかもなく、目も閉じており穏やかできれいだった。
人生で一番楽しかったと笑いながら語っていた、幼稚園・小学生時代。
おじいちゃんおばあちゃんやお父さんお母さんからはもちろん、友達からも、先生からも、ご近所からも人気の可愛い子だったね。
姉の私は、そんなターに嫉妬していたよ。
だから意地悪なこともしたね、ごめん。
でも、もちろん、自慢の弟だった。
それが、中学・高校になってちょっと世の中が見えてきてからは昔みたいに笑わなくなってしまった。
私が実家に帰る度にバカ話をして一緒に笑い転げていたけれど、ずっと見えないところで悩んでいたんだね。
最後の交際相手から裏切られたのがきつかった?
家族に内緒で借金をしたことがきつかった?
3年前から発症したクローン病がきつかった?
異動・転勤になるかもしれないのがきつかった?
小さい頃に思い描いていた人生にならないことがきつかった?
そんなすべてを言えないことがきつかった?
きつかったなら全部やめちゃってもよかったんだよ。
昔、ターが口にピアスなんかして親をびっくりさせたり、うつ病で会社を無断欠勤して親を心配させていたとき、正直なところ、ターなんていなくなればいいと思ってしまった。
でも、いざターがいなくなると、やっぱりだめだ。
ターがいたからこの家族は笑っていられたんだよ。
誰一人欠けていい人はいない。
ただただ、生きていてくれればよかった。
ターが天に昇っていけるように手放さないといけないと言われているけれど、手放せないよ。
遺された人が苦しんでいると故人も苦しいと聞いたけれど、どうやったって「あのとき声をかけていれば」「話を聞いていれば」「電話だけでもしていれば」と後悔しては苦しくなっている。
そんなときは、ちょっと変だけど、最期の穏やかな表情を見て自分を納得させている。
ターは人生で一番楽しかったあの頃に帰ったんだよね。